アトピーの痒みはなぜ慢性化するのか?(1)

編集の北です。

 

 

 

 

 

 

 

 

                         
情報誌あとぴナビの冬号が発行されましたが、読者の皆さまから、今月の特集「アトピーの痒みはなぜ慢性化するの?」に多くの反響をいただいております。
そこで、記事の内容を紹介したいと思います。
          
         
●アトピーの痒みはなぜ慢性化するの?
(情報誌あとぴナビ 2015年冬号より)
          
「アトピーの痒みがピタッと止まる薬があったら…」痒くなければ掻き壊しもなく、皮膚の炎症も治まりやすくなるでしょう。実際にそんな薬が開発されるのも夢ではない、画期的な研究成果をご紹介します。
         
九州大学大学院薬学研究院ライフイノベーション分野
監修 津田 誠教授
         
■痒みの研究が進化している
          
痒みを直接抑えることができる薬は今のところ存在しません。現在、アトピー性皮膚炎の治療に使われている薬は、皮膚の炎症を抑えるためのものだからです。薬で炎症を抑えた結果、痒みも治まってくるわけです。
痒みに直接アプローチする薬が存在しないのは、今までのアトピー研究において、皮膚を対象としたものが主流だったためと考えられます。痒みそのものに関する研究は少なく、痒みを感じる仕組みもほとんどわからなかったのです。
ところが近年では、痒みを伝える神経に着眼した研究が増えてきて、様々なことがわかってきました。「痒み」はこれまで「弱い痛み」と考えられていたのですが、ここ6?7年で、痒みだけを起こす物質や、痒みだけを伝達する神経回路などが次々と発見されました。
         
■痒みを感じるメカニズム
        
痒みを伝える物質でよく知られているのは、GRP(ガストリン放出ペプチド)と呼ばれるタンパク質。脊髄の中にGRPがたくさん出ると痒くなることがわかってきました。
その仕組みを簡単に説明しましょう。皮膚からの痒みシグナルが神経に伝わるとGRPが出て、他の神経に発現しているGRPR(GRPの受容体)にくっつきます。
それが次の神経細胞(ニューロン)に情報を伝え、さらに複雑な回路を経て脳に達することで痒みを感じます。
GRPとGRPRの発見によって痒みの研究は一気に進み、痒みを感じる仕組みの一端が見えてきました。ただしこれは急性の痒み(様々な要因で日常的に感じる一過性の痒み)のメカニズムで、アトピー性皮膚炎などで痒みが慢性化した場合はどうなるのでしょう?
痒みは本来、皮膚に侵入しようとする異物を知らせ、掻くことで除去するという自己防衛反応と考えられます。このような正常な痒みは短期的に治まってしまいます。
しかし、アトピー性皮膚炎などの慢性的な痒みにおいては、過度に掻くことで皮膚炎が悪化し、さらに強い痒みを感じてしまうという悪循環に陥ります。慢性化した病的な痒みには、急性の痒みとは違った仕組みがあるのでしょうか? 
これから紹介する研究は、どのようなメカニズムで痒みが慢性化するのかを明らかにしようとするものです。
        
■慢性の痒みには別のメカニズムがある
         
九州大学・津田教授らの研究チームは、アトピー性皮膚炎のモデルマウス(以下、アトピーマウス)を使って実験を行いました。
グラフAをみてください。アトピーマウスの痒み行動(引っ掻く回数)は週齢を重ねるごとに増えていき、15週間も経つとほぼピークに達します。生後15週のアトピーマウスの毛をそって皮膚を観察すると、引っ掻き傷だらけで人のアトピー性皮膚炎とそっくりな状態です。
通常の痒みでは、脊髄の中にGRP(ガストリン放出ペプチド)が出て神経活動が高まります。アトピーマウスでも同じことが起こっていて、脊髄後角の神経細胞(ニューロン)が活性化します。
次に、人為的にGRPを投与するとどのような変化が起こるかを調べました。すると、アトピーマウスも正常なマウスも痒みが増し、激しく掻くようになりました。このときのマウスの状態を30分間観察したものがグラフBです。正常なマウスは100回弱ぐらい掻いていましたが、アトピーマウスはその2倍以上掻いていることがわかります。これは、アトピーマウスでGRPの感受性が高まっていることを示します。
ここで予測できるのは、アトピーマウスのGRPもしくはGRPR量が増えているのではないかということ。そこでGRPとGRPRの発現量を調べましたが、変化はみられませんでした。つまり、何か他のメカニズムが働いてアトピーマウスの痒みが増しているのではないかと考えられるのです。
          
            
アトピー性皮膚炎という疾患の最も大きな「問題」は痒みです。
仮に炎症が見られても、痒みがなければ掻き壊さず、バリア機能の低下にもつながりません。
アトピー性皮膚炎の症状悪化に対しては、バリア機能の低下が大きく関わっているわけですから、「掻かない」ということが大切であり、だからこそ、現在の病院の治療は、アトピー性皮膚炎の治療ではなく、間接的な治療となる「痒み」の治療に主眼を置いているわけです。
しかし、考えてみれば、今回の記事にあるように「痒み」とは、神経を伝わって感じている「感覚」です。
そうした点で考えると、今回の「神経」に対する研究は、アトピー性皮膚炎の治療として別のアプローチにつながる可能性は大きいと言えるでしょう。
明日は、続きについて紹介します。

                                
おまけ★★★★大田のつぶやき

「痒み」とは、ヒトが持つ「力」とも言えます。
記事にも、正常なマウスが100回掻いた、とあるように、掻く行為そのものは生体反応として正常な行為であると言えるでしょう。
その境界線が肌にダメージを与えるまで至った場合には、目に見えて皮膚に炎症がみられるようになるわけですが、全ての痒みを「ゼロ」にはできないこと、過剰な痒みについてどのように対処するのか、こういったことも考えていくべきなのでしょう。