あとぴナビ2021年春号の特集記事より(4)

編集の北です。

 

 

 

 

 

 

                         
今日は、今回のテーマの最後です。
         
         
●あとぴナビ・サイエンス(2021年春号より)
        
アトピー・ストレス・心の状態 その関係を明らかにする
            
▼脳内に生じたプライミング現象
            
そこで研究チームは、人為的にアトピーマウスの炎症反応を高めて免疫の変化をみることにしました。具体的には、LPS(リポポリサッカライド)という内毒素を全身に投与し、炎症をさらに誘発しました。
すると、アトピーマウスの脳(扁(へん)桃体(とうたい)や海馬(かいば))では、Iba-1陽性の活性化ミクログリアが顕著に増えました。Iba-1とはミクログリアの活性化に関与する脳内タンパク質で、脳内に炎症が起こっていることを示します。さらに、LPS投与後4時間後のアトピーマウスの海馬では、IL6(インターロイキン6)が顕著に増えていることもわかりました。IL6は炎症性サイトカイン(炎症を起こすように合図を送るタンパク質)であり、炎症の慢性化に大きく関与することがわかっています。
以上の結果から、「生後40日目のアトピーマウスの脳内では、炎症反応に対するプライミング状態が誘導されていた」と研究チームは断定しました。プライミング状態とは、先に受けた刺激により、後になって追加の刺激があった場合に反応がより大きくなることをいいます。
今回の実験に当てはめると次のような感じになります。乳幼児期にアトピーマウスたちは、皮膚炎によるストレスを感じていました。しかし最初はそのストレスに対する症状は特にみられませんでした。ところが思春期になって同じ皮膚炎ストレスを受けると、その刺激は増幅されて脳内に炎症を起こすようになりました。
          
▼思春期のアトピーマウスに“鬱”が生じた根拠
              
さて、アトピーマウスの脳内炎症は具体的にどんな症状として現れたのでしょうか? 最初に答えをいうと、その症状は「鬱」ということになります。なぜ、鬱なのかわかるのかというと、次の3つの根拠があらげれています。
            
<根拠1> 好物の砂糖水をあまり飲まなくなった
マウスのストレスをはかる試験のひとつに「ショ糖嗜好性試験」があります。健康なマウスはショ糖水(砂糖水)が好物なのでよく飲むのですが、過度のストレスを受けたマウスはショ糖水をあまり飲まなくなります。また、このようなマウスの行動変化は、抗うつ剤の投与により改善されることがわかっています。
    
<根拠2> 動かない時間が多くなった
マウスをシッポから逆さ吊りにして、どれだけ動く時間が長いかをはかる試験を尾懸垂試験といいます。逆さ吊りとはかわいそうですが、鬱状態のマウスほど体を動かさない「無動時間」が長くなります。この試験を行う際にあらかじめ抗うつ剤を投与すると、無動時間が短くなることがわかっています。
          
<根拠3> 精神疾患に関与するキヌレニン代謝の異常
必須アミノ酸のひとつであるトリプトファンは、神経活動の情報を伝えて精神状態を落ち着かせるなどの重要な役割を持ちます。私たちが摂取したトリプトファンが体内で代謝される際、様々な代謝産物や酵素などがつくられますが、そのひとつにキヌレニンという物質があります。最近の研究では、キヌレニンが中枢神経系に作用して鬱病や統合失調症のような精神疾患に関係していることがわかってきました。
今回の実験では、LPSによってアトピーマウスの炎症を増強したところプライミング現象が起こりましたが、このときアトピーマウスの脳(海馬、前頭前皮質、扁桃体)では、キヌレニン代謝の速度を決める酵素(IDOやKMO)が有意に増加していました。この結果は、キヌレニン代謝異常による代謝産物の影響で鬱様症状が起こっている可能性を示しています。

▼アトピーで落ち込まない人生を送るために
今回ご紹介した研究からは、次のようなメッセージを受け取ることができます。
アトピー性皮膚炎の治療は皮膚とアレルギーの問題だけでなく、将来の精神・神経発達も含めた予防・治療を視野に含めることが重要。
脳神経の基礎研究を進めながら、小児科の臨床医でもある橋本興人先生は、乳幼児期にアトピーなどの慢性疾患によるストレスを蓄積しないことが大事であるといいます。そのためには、早い時期に小児科に相談して痒みのストレスから一刻も早く解放されるための治療が必要だと訴えます。
また、アトピー性皮膚炎など慢性疾患がもたらすストレスが脳にもたらす影響のメカニズムが分子レベルで明らかにされたことは、新たな予防法や治療法の開発につながってきます。現段階では詳細をお知らせするまでには至っていませんが、橋本先生も、新薬につながる様々なアイデアを試行錯誤している最中でした。
また今回の研究成果は、ストレスを減らすことがアトピー性皮膚炎を改善することの科学的根拠も示しているといえるでしょう。そうであれば、日常的な心持ちや生きる姿勢が症状に影響することは明白です。前向きにポジティブに生活することは、アトピーの症状改善に大きく影響するのです。
         
        
記事は以上となります。
アトピー性皮膚炎、というよりも、痒みによってストレスを感じることが、精神的な影響を与えることは興味深いところです。
適切なケアを心がけるようにして欲しいと思います。

                        
おまけ★★★★博士のつぶやき

最後に書かれておる「アトピー性皮膚炎など慢性疾患がもたらすストレスが脳にもたらす影響のメカニズムが分子レベルで明らかにされたことは、新たな予防法や治療法の開発につながってきます。」というところは、今後のアトピー性皮膚炎の治療の分野でもぜひ、役立てて欲しいところじゃの。