あとぴナビ2021年春号の特集記事より(3)

編集の北です。

 

 

 

 

 

 

 

                         
今日も、昨日の続きです。
         
         
●あとぴナビ・サイエンス(2021年春号より)
        
アトピー・ストレス・心の状態 その関係を明らかにする
                  
▼アトピーマウスはストレスを感じている?
            
この実験では、生後2日目から何回かに分けて皮膚炎を起こす薬品を塗ることで、生後30日頃にはアレルギー反応も伴う皮膚炎のあるマウスを育てました。マウスの寿命は大体2年ほどで、老化速度は人間の約30倍と言われています。したがって、生後30日のマウスは乳幼児と考えてよいでしょう。
生後30日のアトピー性皮膚炎モデルマウス(以下、アトピーマウス)にストレスが生じているかは、ふたつの指標によって判断しました。
          
<指標1> コルチコステロンの上昇
コルチコステロンとはマウスの副腎皮質から分泌されるホルモンで、人間の副腎皮質から分泌されるコルチゾールと同じものです。すでに説明した通り、コルチゾールはストレスに対抗するために分泌されるホルモンです。
人がストレスを受けると、脳の指令によりコルチゾールが分泌され、体は臨戦体勢をとることができます。たとえば、人前でスピーチをするとき、コルチゾール値は2~3倍に上昇するそうです。
次のグラフAをご覧ください。生後30日のアトピーマウスの血中ストレスホルモン量(血中コルチコステロン)を示しているのは、右の黒い棒グラフです。左(白)と中央(グレー)は皮膚炎ストレスのないマウスで、ストレスホルモン量の比較対象となるものです。このグラフが示すように、アトピーマウスの血液中において、ストレスホルモン量は明らかに上昇していることがわかります。
       
<指標2> 体重の減少
            
ストレスを感じると、脳は神経系に対して「交感神経を優位にしろ」と指令を出します。自律神経が交感神経と副交感神経のバランスによって機能していることは、ご存知の方も多いでしょう。交感神経は活動時や緊張時などに優位となりますから、ストレスに対抗する場合にも交感神経が興奮した状態が続きます。
 過剰なストレスでこの状態が長期化すると、リラックス状態をもたらし、消化吸収の促進にもつながる副交感神経が抑え込まれて、食欲不振や消化吸収能力が低下しやすくなり、体重減少につながります。
グラフBは、生後30日のアトピーマウス体重増加量(右側の黒い棒グラフ)を示したものです。左(白)と中央(グレー)の皮膚炎ストレスのないマウスと比べると体重の増加不良が認められ、アトピーマウスがストレス環境下にあることがわかります。
            
【実験の流れ③、④】
       
▼アトピーマウスに生じた脳内の炎症
        
ここまで、実験の流れ①、②についてお話してきました。これから流れ③、④について説明していきますが、ここからが本研究による新たな知見を示すものです。
マウスは生後50~60日くらいで繁殖を開始しますから、生後40日前後は思春期と考えられます。したがって、乳幼児期におけるアトピー性皮膚炎による思春期での影響を検証するために、生後40日のアトピーマウスの行動を解析したところ、健康なマウスと比べて特に違いはみられませんでした。
ところが、アトピーマウスの脳内の状態を調べてみると、健康なマウスの脳に比べて明らかな違いが認められたのです。脳ではミクログリアと呼ばれる免疫細胞が、脳内環境の監視を行っています。免疫反応とは、外部から侵入する異物を排除する働きです。侵入してきたウイルスや細菌などを攻撃する際に、免疫細胞は敵を食べたり攻撃しますが、その際には炎症反応などが起こります。
 また、免疫系では免疫細胞たちが暴走しないようにバランスをとる仕組みも多く備わっています。免疫が働きすぎると自己を攻撃してしまうことがあるからです(アレルギー性疾患や自己免疫疾患など)。免疫応答にブレーキをかける役割を持つ制御性T細胞は、免疫系のバランスを保つのに重要ですし、がん免疫療法でノーベル医学・生理学賞を受賞した本庶博士の研究も、PD-1という免疫を抑制する分子に着眼したものでした。
 CD200R1と呼ばれるタンパク質も、同様に免疫を抑制する機能を担っています。製品記号のような覚えにくい名称ですが、生後40日のアトピーマウスの脳を調べたところ、扁桃体でCD200R1が減少していることがわかりました(グラフC)。これはどういうことかというと、アトピーマウスの脳内でミクログリアが炎症作用を起こした場合、炎症が鎮まりにくい状態になっているということです。
          
         
今日は、ここまでにしたいと思います。
続きは明日です。

                       
おまけ★★★★東のつぶやき

ストレスが内分泌や自律神経に影響を与える以上、脳内への影響があっても不思議ではありませんが、その影響が炎症であることは、興味深いところです。
炎症は、サイトカインなどのたんぱく質にも関わりますし、記事にあるように制御性T細胞の働きにも関わってきます。
器質的にどのような影響があるのか、今後の研究に期待したいと思います。