2018年4月号の記事より(7)

北です。

 

 

 

 

 

 

 

 

                    
今日は、今回のテーマの最後です。
最近、皮膚科医が推奨することが多い、プロアクティブ療法について考えてみましょう。
          
            
●ステロイド治療の「メリットゾーン」と「デメリットゾーン」
今、あなたはどっちに立っている?
(2018年4・5月号特集より)
            
▼プロアクティブ療法は、再発を防ぐ最適な方法なのか?
          
最近、皮膚科医の間で主流となりつつある「予防法」にプロアクティブ療法があります。
アトピー性皮膚炎の症状が出ているときに治療として用いられる外用療法は「リアクティブ療法」といいます。それに対して、症状が出る前から予防的に外用療法を行う治療法を「プロアクティブ療法」と言います。
簡単に言えば、現在進行形のステロイド剤治療は「リアクティブ療法」、寛解状態(症状が落ち着いた状態)でもステロイド剤の治療法を続けることを「プロアクティブ療法」と呼んでいるわけです。
確かに、痒みによる「掻き壊し」は、皮膚のバリア機能を低下させる大きな要因です。そして皮膚のバリア機能が低下すれば、細菌叢を乱し、アレルギー的な要因を増加(IgE抗体の増加)、アトピー性皮膚炎を悪化させる要因につながりますので、この「掻き壊し」を事前に防ぐために、痒みにつながる炎症を事前に抑える、という方法自体は理にかなっている部分はあるかもしれません。
ただし、そこにはある前提条件があります。
その前提条件とは、「ステロイド剤は長期連用してもマイナスの影響を与えない」というものです。果たして、ステロイド剤は、医師がいうほど、長期連用によるマイナスの作用(副作用ではなく、アトピー性皮膚炎に対して悪化要因となりうる部分として)を受けずに済むのでしょうか?
ここに大きな落とし穴が潜んでいるといっても良いでしょう(P・10~16参照)。
      
基本的に、初発のアトピー性皮膚炎は「軽症」であることがほとんどです。アトピー性皮膚炎患者(罹患した経験者を含む)は、日本では800万人程度と推計されていて、その中で、反復継続した治療を必要とする中程度以上の患者は1割程度と考えられているようです。
つまり、そのほとんどは、ステロイド剤の治療で「完治」した状態まで持っていけます。メリットゾーン内で済んでいる、と言えるでしょう。
問題は、中程度以上の1割の患者の方です。すでにメリットゾーンを越えてしまっていることが多く、アトピー性皮膚炎の原因も悪化要因も、アレルギーだけではなく皮膚の機能的な部分が主に関わっている状況です。したがって、皮膚のバリア機能を「落とす」要因はいずれもアトピー性皮膚炎の症状の悪化につながりやすいと言えるでしょう。
こうした方にプロアクティブ療法を行うことは、確かに、「掻き壊し」というバリア機能を落とす要因は防ぐことができます。ただ、実際には、皮膚機能と免疫機能の状況は、プロアクティブ療法を行っているつもりが、リアクティブ療法の延長線上に過ぎなかった、というケースが多いのも事実です。
九州大学がプロアクティブ療法について説明しているホームページを見ると「プロアクティブ治療中にも再発はあります」と書かれていますが、全てではないにしろ、その再発した患者の状況を細かく調べれば、実は、症状が再燃しやすい状態でも寛解状態と判断していたケースが見えてくるでしょう。
具体的にいえば、皮膚の細菌叢を調べてみれば、続けていたステロイド剤の治療がプロアクティブ療法だったのか、リアクティブ療法だったのかが分かるはずです。
もし、黄色ブドウ球菌やコリネバクテリウムボービス菌などの異常な細菌叢が見られていた場合には、体内のIgEはデルタ毒素などで増強されやすい環境が続いていたわけで、「炎症予備軍が待機」していた状況と言えます。
この何かをきっかけに炎症が再燃しやすい状況にあった場合、これを寛解状況というのは少々、無理があるように思います。骨折で言えば、折れた骨はくっついたが、動くとまだ痛みはある、その痛みは鎮痛剤で抑えている、といった状況です。ちょっとしたバランスの崩れから、折れた部位に体重をかけたりすれば、再び、悪化する恐れもあります。風邪で言えば、解熱鎮痛剤を飲んでいれば、熱は下がった「楽になった」状況です。楽になったからといって、仕事に復帰したり、ハードな運動などを行えば、解熱鎮痛剤の効果が切れれば、再び高熱が出る恐れがあるでしょう。こうした状態は寛解状態ではなく「治りかけ」の状況に過ぎません。
治りかけ=再発しやすい状況、と言えますから、そうした状況で行われる治療法は、リアクティブ療法の側面が強いでしょう。
ここに、ステロイド剤を使用する際の「デメリットゾーン」が関係してくると、今度は、プロアクティブ療法として使い続けるステロイド剤が、アトピー性皮膚炎を悪化させる、あるいは再発の引き金となる恐れがある、ということです。
おそらく、こうしたアトピー性皮膚炎の悪化や再発に対して、医師は、単にアトピー性皮膚炎の炎症が悪化しただけであって、ステロイド剤は関係ないと説明するでしょう。しかし、デメリットゾーンにおけるアトピー性皮膚炎の悪化を生む「原因」を考えれば、そのアトピー性皮膚炎の悪化にステロイド剤が関係していた可能性は否定できないはずです。
ましてや、本当にアトピー性皮膚炎が寛解した状態にある人に、ステロイド剤の使用を続けることは、健常な人に塗布した場合であっても、それが蓄積した影響が認められているわけですから、免疫抑制効果による細菌叢の乱れを招いて、「新たなアトピー性皮膚炎発症の引き金」になる恐れも考えられます。
今後、プロアクティブ療法の問題点が指摘されるとするなら、おそらく、年単位の長期間が経った後のことでしょう。なぜなら、短期でプロアクティブ療法を終えられた方は、当たり前ですが、そうした問題点を抱えることはないからです。実際、ここ数年の間で、プロアクティブ療法を続けてきた方からの症状悪化のご相談も増えてきています。
その多くは、通常のステロイド剤治療、つまり「リアクティブ療法」と同じ状態を示しています(リバウンド症状など)。長期にわたりプロアクティブ療法を「続けてよい根拠」は、実は、まだ確立したものではないこと、また医師が治療を行う際に、「プロアクティブ療法」と「リアクティブ療法」の明確な境界線も定まっていないことを忘れてはならないでしょう。
             
          
このプロアクティブ療法は、かなり微妙な問題を抱えている、と言えるでしょう。
今は、リアクティブ療法からプロアクティブ療法、という使い分けを医師は行っています。
簡単に言えば、リアクティブ療法は炎症が起きている間は、しっかり使い続けましょう、そしてプロアクティブ療法は、炎症が落ち着いてしまえば、少しずつ間隔を空けていきましょう、という方法です。
ただ、この方法は、言葉を変えているだけであって、昔のステロイド剤の「使い方」となんら変わりはありません。炎症が落ち着いてくれば、少しずつ間隔を空けながら、もし再燃すれば、再びしっかり使う、こんな使い方は、昔のアトピー性皮膚炎で病院に罹っていた人なら、多くの人が医師から言われていたことでしょう。
単に、リアクティブ療法の中身を「リアクティブ」と「プロアクティブ」に分けて表現しただけに過ぎず、昔でいうところの「リアクティブ療法」がその全体像と言えます。
自分がステロイド剤に対して、どのようなポジショニング(メリットゾーンなのか、デメリットゾーンなのか)にいるのかは、しっかり考えながら、向き合うようにしていきましょう。

                        
おまけ★★★★北のつぶやき

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