プラセボとプロアクティブ治療を考える(1)

大田です。

 

 

 

 

 

 

 

 

                      
最近、アトピー性皮膚炎の治療で、「プロアクティブ治療」を行う医師がいます。
プロアクティブ治療とは、症状が現れているときに薬剤を投与、塗布するリアクティブ治療
により症状がいったん治まった後も、予防的見地から、一定期間、間歇的にステロイド剤やプロトピック軟膏を塗布し続ける治療法です。
つまり、症状がもし再燃することがあっても、事前に「消火剤」を撒いておけば、再燃しないだろう、という治療です。

このプロアクティブ治療は、それなりのエビデンスがあるようですが、エビデンスの取り方に問題があるようです。
その問題を考える前に、一つの記事を紹介しましょう。
           
         
●睡眠薬の効果は「4階建て」 ニセ薬、侮り難し
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170305-00010003-nikkeisty-life&p=1
       
マイナス33分 vs. マイナス11分――これは何の数値でしょう。
       
答えは過去の幾つかの新薬治験の成績から割り出された睡眠薬の平均的な入眠促進効果である。実薬(本物の薬)だと寝つきにかかる時間が33分短縮するが、偽薬(ニセ薬)でも11分短縮する……、その差は22分。読者の皆さんはどのような感想をお持ちだろうか。
新薬の開発や臨床試験に関わる人間の共通した感想、というか悩みは「偽薬、侮り難し」である。病気の種類や重症度、患者の性別や年齢によっては偽薬との差がさらに縮まることもある。
偽薬でも実薬だと信じて服用すると一定の治療効果が出る現象を「プラセボ効果」と呼ぶ。プラセボとは偽薬のことで、ラテン語に由来する。プラセボはがん、糖尿病、高脂血症など実に多くの疾患の治療で「効果」を上げている。例えば、高血圧症やアトピーでも偽薬服用後に血圧の低下(降圧効果)やかゆみの改善(抗アレルギー効果)が一定の割合で認められる。
特に不眠、うつ、痛みなど主観症状が主体の疾患ではプラセボ効果が大きい。新薬開発では実薬の治療効果が偽薬のそれを上回ることが求められるが、この勝負、とても大変なのである。というのも降圧剤や糖尿病治療薬の偽薬が小結クラスだとすれば、睡眠薬の偽薬は大関クラスの実力があるからだ。大関を下すには横綱級の新人を見つけなくてはならないが、睡眠薬の世界も「人材不足」は大相撲と変わらない。
ここに有望な新薬候補があったとする。その新薬の効果を確かめるには手間のかかる臨床試験(治験)が必要となる。よく使われる試験方法は「プラセボ対照・無作為化・二重盲検・群間比較試験」である。舌を噛みそうな長い名前だが今日の治験では標準的な試験方法の1つである。
この試験では、新薬成分が入った実薬だけではなく、実薬と見分けが付かない偽薬も用意する(プラセボ対照)。治験に参加してくれる患者をランダムに(無作為に)2グループに分け、片方には実薬を、残る片方には偽薬を服用してもらう。どちらを服用しているか患者にも主治医にも分からないようにして(二重盲検)、一定期間服用した後に症状の改善度を比較する(群間比較)。実薬服用群の方が偽薬服用群より症状が改善していれば試験は成功である。
         
▼医師でさえも偽薬の影響を受ける
        
なぜこのような面倒な方法を用いるかというと、偽薬であっても「服薬している」「実薬かもしれない」「治療を受けている」という意識、服薬する行為そのものがこれから説明するようなさまざまな心理面、行動面の変化を引き起こし、病気の経過に大きく影響するからである。「プラセボ対照・無作為化・二重盲検・群間比較試験」は偽薬の影響を取り除くために巧妙にデザインされた試験方法で、世界中の新薬治験の多くがこの方法を用いている。
そもそも病気の経過中には何も治療しなくても、改善したり(自然治癒)、逆に悪化するなど症状がかなり変動する。不眠症も症状が変動しやすい病気の1つである。効果の弱い治験薬でも服用するタイミングによっては大きな効果があるように見えてしまうことがある(図の1階部分)。
次に、治験に参加するという行為自体が病気に影響することがある。例えば睡眠薬の治験では服薬時刻を一定に保つように指示されるため、おのずと就床、起床時刻が一定に整うようになり、このような規則正しい睡眠習慣そのものが不眠症の治療につながってしまう。そのほか、喫煙や飲酒を控える、日光浴や運動を増やすなど知らず知らずのうちに快眠につながるようなライフスタイルの変化が生じることがある(図の2階部分)。
治験薬を服用することの心理的な影響もある(図の3階部分)。実薬かもしれないという期待感だけで不眠症状が軽快することが少なくない。また、治験薬を服用する緊張感は副作用の出方にも影響する。偽薬にもかかわらず、さまざまな副作用が出現することがある。これをノセボ効果と呼ぶ。
心理的影響は症状をチェックする医師の側にも生じる。不眠症状や副作用の有無を患者から聞き取る際に、主治医が割り付けられた薬剤を知っていると判断にバイアスがかかるのだ。
実薬の「真の効き目(薬理学的効果)」は最後の、図の4階部分に相当し、これを効果量(effect size)と呼ぶ。実薬と偽薬の差を見ることで初めて効果量の大きさを知ることができる。効果量の大きい薬剤は治験を容易にクリアし、発売後も人気のある治療薬となることが多い。
偽薬を服用したときにみられる3階部分までをプラセボ効果と呼ぶことが多いが、無治療でもみられる1階部分を除いた2階、3階部分だけを(真の)プラセボ効果と呼ぶこともある。
          
▼プラセボ効果はイリュージョンにあらず
        
1つの睡眠薬が患者の手に届くまでには、このような厳しい戦いを勝ち抜く必要がある。効果量が比較的小さい新薬の場合、偽薬との差を明らかにするために治験に参加してくれる患者数を増やすなど、かなりの苦労を強いられる。また効果量が大きいだけではダメで、副作用が許容できる程度に収まる必要もある。メリット(エフェクト)がデメリット(リスク)を十分に上回っている必要があるのだ。
「効果量が小さい薬物を服用する意味はあるのか」という質問を受けることがある。悩ましい問題である。たとえ効果量は小さくても4階まで合わせれば十分な治療効果を発揮することが大部分だ。皮肉な言い方になるが、服用しなければプラセボ効果も得られない。「全部足して治ればよい」――少し乱暴なようだが、先の質問にはそのようにお答えすることにしている。
「偽薬効果が大きい病気であれば偽薬を服用したい、副作用も少ないだろうし」そのように考える方もおられるだろう。しかし残念ながら偽薬と分かって服用すればプラセボ効果は得られないというジレンマがある。患者に分からないように主治医が偽薬を処方できれば別だが、倫理面の問題もあり、医療現場では通常行われていない。
プラセボ効果はイリュージョンではない。新薬への期待やライフスタイルの改善を通じて患者の自然治癒力が引き出されているのだ。普段の診療でもプラセボ効果は存在する。薬の作用や副作用を丁寧に説明して患者の信頼を勝ち取れば、薬の効果は倍増する。
無愛想で患者に優しくない医者が処方した睡眠薬と、患者の信頼の厚い医者が処方した偽薬、かなり良い勝負になるかもしれない。臨床試験を行えば話題になることは間違いないが、患者も医者も試験に参加したがらないだろう。
睡眠薬を処方しても寝つきが22分しか縮まらない…そのようなことにならないよう丁寧な診療を心がけたいものである。
         
        
対象が「睡眠」ですが、記事中の「プラセボ対照・無作為化・二重盲検・群間比較試験」という部分に、プロアクティブ治療の問題点の一つがあります。
長くなりましたので、続きは明日にしましょう。

                                
おまけ★★★★博士のつぶやき

プラセボ効果は、目に見えないだけに、「やっかい」な部分も多いじゃろう。
なぜかというと、最初の治療ではこのプラセボ治療で「効いた」のが、次に同じ治療を受けると「効かなかった」ということがあるからじゃ。
もちろん、薬を使用したことによる副作用などマイナスのリスクは大幅に軽減されるわけじゃが、ヒトは心身のバランスを保って成り立っておることは忘れないようにした方が良いじゃろうの。