2015年秋号の特集より(2)

編集の北です。

 

 

 

 

 

 

 

                    
今日は、昨日の続きです。
         
          
●皮膚と最近叢の関係からアトピーの新たな治療法を探る
(監修:永尾圭介/米国衛生研究所主任研究員、元慶應義塾大学医学部専任講師)
         
・アトピーマウスでも皮膚炎悪化で黄色ブドウ球菌が増えた
             
アトピー性皮膚炎のモデルマウス(以下、アトピーマウス)の皮膚は、3週間ほどでカサカサし始めて8週目頃になると明らかな皮膚炎が認められています。この頃のマウスが、人間のように湿疹部分を掻いている動画も論文では示されています。
実際のデータも検証してみましょう。グラフAは皮膚からの水分蒸散量(TEWL)を計測したものです。水分蒸散量が多いほど皮膚は乾燥するのですが、3週め以降から健康なマウス(黄)に比べてアトピーマウス(赤)は皮膚から数倍の蒸散量があることがわかります。
グラフBはIgE(多くのアトピー患者で高い抗体)の値ですが、アトピー性皮膚炎のマウスの方が圧倒的に高い数値を示しています。マウスのリンパ節を採取して免疫応答の状態を解析しても、インターロイキン4(IL4)や17(IL17)などアトピー性皮膚炎に関係したサイトカインが多く検出され、人間のアトピー性皮膚炎とそっくりな状態です。
さらに皮膚の細菌の状態をマイクロバイオームという解析方法で調べると、予想通りの結果が出ました。
グラフCは、健康なマウスとアトピーマウスの皮膚に存在する細菌の種類を色分けし、生後14週までの変化を示したものです。健康なマウスもアトピーマウスも、2週間目あたりまでの細菌叢(各グラフ左)はほぼ同じです。
健康なマウスの細菌叢をみると、大半を青色の細菌が占めています。
これはFirumicutes(フィルミクテス門)と呼ばれる、非常に多様性を持った細菌の系統です。
アトピーマウスの細菌叢をみると、4週目あたりからC.mastitidis(コリネバクテリウム マスティタイデス:黄緑色)が多くなり、8週目あたりからほとんどC.bovis(コリネバクテリウム ボービス:緑色)と黄色ブドウ球菌(紫色)の2種類だけの異常細菌叢に変貌していることがわかります。
          
・抗生物質による皮膚炎の予防効果
             
アトピーマウスに抗生物質を与える実験も行われました。離乳直後のアトピーマウスに異常細菌叢に効く抗生物質で持続的な抗菌治療を行うと、皮膚の細菌叢は正常なままで皮膚炎も発症しませんでした。これはつまり、抗生物質による抗菌治療には皮膚炎の予防効果が認められたということです。ただし、この治療は身体への他の影響も強く、人間に対して行うことはできないレベルのものです。
          
・抗菌治療の中止でリバウンド様症状が起こる
            
次に、離乳直後から抗菌治療を行わないグループAと治療を行うグループBに分けて、症状の推移を観察しました。離乳直後から治療を行わないグループAのアトピーマウスには皮膚炎が発症するので、10週目から抗菌治療を開始しました。一方グループBのアトピーマウスは抗菌治療の予防効果で皮膚炎が発症していませんでしたが、10週目で抗菌治療を中止しました。
その結果、グループAで発症していた皮膚炎は抗菌治療によりほぼ治まり、皮膚細菌叢は正常な状態に戻りました。一方、皮膚炎の発症がなかったグループBの抗菌治療を中止すると、正常だった細菌叢が、ほぼ黄色ブドウ球菌とC.bovis2種による異常細菌叢へと一気に変貌し、激しい皮膚炎が発症しました。
          
・皮膚の異常細菌叢とアトピー性皮膚炎
          
この実験から、次のことが考えられます。人体に住み着く菌の多様性が失われた状態をディスバイオーシスといいますが、ディスバイオーシスと湿疹の出現には密接な関係があることが分かりました。アトピー性皮膚炎の皮膚はディスバイオーシスが起きやすい状況にあり、湿疹を治すためにはディスバイオーシスを制御することが鍵となる可能性があります。
実験で使った抗生物質には、異常細菌叢を占める2種の細菌(ブドウ球菌とコリネバクテリウム)への抗菌活性がありました。したがって治療により一時的にディスバイオーシスを改善することはできますが、治療を中止したとたん一気にリバウンド様症状が出てしまいます。ディスバイオーシスの重要性を示すとともに、抗生物質による治療が根本的な方法ではないことを示しています。
ディスバイオーシスが起こった結果、黄色ブドウ球菌とC.bovisが増えて皮膚炎を起こします。しかし、なぜディスバイオーシスが起こるのかは、この実験だけでは説明できません。
研究グループは、そのヒントが癌治療で使われるEGFR(表皮発育因子受容体)阻害剤にあるのではないかと考えました。この薬で治療を行うと皮膚炎を発症しやすいのですが、実験で作ったアトピーマウスでも、EGFRが正常に機能していないことが予想されました。そこでEGFR を欠損させたマウスを作ってみると実際にディスバイオーシスが起こり、アトピーマウス同様に湿疹を発症しました。
表皮発育因子(EGF)は表皮の成長や増殖を調整していますが、この受容体(EGFR)がうまく機能しないことによってディスバイオーシス(菌の多様性が失われた状態)が起こっていたのです。低下したEGFR経路を活性化させることが、ディスバイオーシスを制御しうる可能性を示しています。
             
・アトピーの原因をピンポイントで治療する
              
以上がこの論文の概要ですが、この研究成果からアトピー性皮膚炎の新たな治療戦略を考えることができます。
新しい治療方法は、表皮がディスバイオーシスに陥る仕組みをターゲットとするものになるでしょう。アダム17EGFR(表皮発育因子受容体)経路の異常によって菌の多様性が失われ、黄色ブドウ球菌が増殖することで皮膚炎になるという大枠は見えてきました。黄色ブドウ球菌が増える仕組みを更に詳しく究明すれば、皮膚のどの細胞が、どのような機序で黄色ブドウ球菌を増やして皮膚炎が起こるのかがわかります。
それがわかれば、より特異的な経路を分子レベルで抑制する分子標的治療が可能です。
実際にアトピー性皮膚炎の分子標的治療の研究は進んでおり、海外ではインターロイキン4(IL4)やインターロイキン13などのアレルギーに関連したサイトカインの受容体をブロックすることでアトピー性皮膚炎が改善したという報告もあります。現在は臨床試験段階ですが、アトピーの原因をピンポイントで治療する薬が実際に使えるようになる日は近いかもしれません。
                    
永尾博士らが行った今回の研究は、ステロイド剤などによる炎症抑制という対症療法に頼ったこれまでのアトピー性皮膚炎治療を、根本的に変革する可能性を持った研究成果を示していると考えてもよいでしょう。
         
         
今年の4月後半に慶應大学がリリースした発表では、黄色ブドウ球菌がアトピー性皮膚炎の原因、と読み取れるような見出しの付け方でしたが、実際に取材させていただいたところ、黄色ブドウ球菌の前に、皮膚の表皮育成因子が不足していることでバリア機能が低下していることが根本的な原因であり、その結果、黄色ブドウ球菌が繁殖しやすい環境を生んでいる、ということが分かりました。
明日は、先生にお伺いしたQ&Aです。

                      
おまけ★★★★北のつぶやき

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