病は気から、を証明?

東です。

 

 

 

 

 

 

 

                         
今日から12月ですね。
一年が経つのは早いものです。これから寒さは厳しさを増してきますので、皮膚の乾燥、そして体の冷えに対する対策はしっかりと行っていくようにしましょう。

さて今日は、大阪大学が発表した論文を紹介します。
          
        
●「病は気から」の根拠を実験的に証明 交感神経による免疫制御のメカニズムの一端を明らかに
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20141125-2/
         
大阪大学免疫学フロンティア研究センターの鈴木一博准教授らの研究グループは、交感神経から分泌される神経伝達物質ノルアドレナリンが、β2アドレナリン受容体を介してリンパ球の体内動態を制御する仕組みを分子レベルで解明し、このメカニズムが炎症性疾患の病態にも関わることを突き止めました(図6)。今回の研究によって、交感神経が免疫を調節する分子メカニズムの一端が明らかになりました。
本研究は、独立行政法人 科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業研究領域:「炎症の慢性化機構の解明と制御」(研究総括:高津聖志 富山県薬事研究所所長)、研究課題名:「慢性炎症における免疫細胞動態の神経性制御機構の解明」、研究者:鈴木 一博(大阪大学 免疫学フロンティア研究センター准教授)の一環として行われました。
本研究成果は、2014年11月25日(米国東部時間)に米国科学誌「The Journal of Experimental Medicine(JEM)」のオンライン速報版で公開されます。
        
■研究の背景
        
「病は気から」と言われるように、神経系が免疫系に対して何らかの調節作用を有していることは古くから指摘されています。事実、リンパ節をはじめ免疫反応の場であるリンパ器官には神経が投射しており、免疫反応の担い手である免疫細胞には神経からの入力を受け取る神経伝達物質受容体が発現しています。しかし、神経系からのインプットがどのようにして免疫系からのアウトプットに変換されるのか、その分子レベルでのメカニズムは現在でもなお十分に理解されていません。特に交感神経は、ストレスや情動による中枢神経の活動性の変化を全身の臓器へと伝える主要な経路であることから、神経系による免疫調節においても中心的な役割を果たしていると考えられます。さらに昨今の健康志向の高まりとともに、ストレスと免疫の関係が注目されるようになり、一般的に「ストレスが免疫力を低下させる」と言われます。しかし、そのメカニズムに関しては十分な科学的根拠が得られているわけではありません。そこで研究グループは、交感神経が免疫に及ぼす影響とそのメカニズムについて研究を行いました。
      
■研究でわかったこと
       
1. 交感神経によるリンパ球の体内動態の制御
         
交感神経が免疫に及ぼす影響を明らかにするにあたって、研究グループは交感神経から分泌される神経伝達物質ノルアドレナリンの受容体の一つ、β2アドレナリン受容体がリンパ球に発現していることに着目しました。まず交感神経が興奮したのと似た状況を作り出すため、マウスにβ2アドレナリン受容体を刺激する薬剤を投与したところ、血液とリンパ液に含まれるリンパ球の数が急速に減少することがわかりました(図1)。マウスの体内でリンパ球にβ2アドレナリン受容体が発現していない状況にすると、β2アドレナリン受容体刺激薬の作用がほとんど消失することから、リンパ球に発現するβ2アドレナリン受容体が刺激されることで血液・リンパ液中のリンパ球が減少することがわかりました。
リンパ球は、リンパ節からリンパ液中に出て行き(脱出し)、リンパ液が血液に合流するのに伴って血流に乗り、再びリンパ節に戻るというかたちで全身を巡回しています。研究グループは、β2アドレナリン受容体が刺激されることで血液・リンパ液中のリンパ球が減少するのは、リンパ節からのリンパ球の脱出が抑えられることが原因ではないかと推測しました。そこで、リンパ球が血液からリンパ節に戻る(進入)のを遮断し、その一定時間後にリンパ節に残っているリンパ球の数を測定するという方法で、時間内にどれだけのリンパ球がリンパ節から出て行ったかを評価したところ、β2アドレナリン受容体が刺激されることによって、リンパ球のリンパ節からの脱出が抑えられることが証明されました(図2)。さらに、体内から交感神経を除いたマウスでは、リンパ球がリンパ節から出て行きやすくなることも判明しました。これらの結果から、交感神経からの入力がリンパ球に発現するβ2アドレナリン受容体を刺激することによって、リンパ球のリンパ節からの脱出を抑制することが示され、交感神経がリンパ球の体内動態の恒常性を保つ役割を果たしていることが明らかになりました。
          
2. β2アドレナリン受容体とケモカイン受容体のクロストーク
          
リンパ球がリンパ節から脱出する頻度は、リンパ節からの脱出を促す信号と、リンパ節への保持を促す信号のバランスで決定されます。そこで研究グループは、これらの信号を受け取る受容体の感受性が、リンパ球に発現するβ2アドレナリン受容体を刺激することによってどのように変化するか調べました。その結果、β2アドレナリン受容体を刺激することによって、リンパ球のリンパ節への保持を促す信号を受け取るケモカイン受容体注3)CCR7とCXCR4の感受性が高まることがわかりました(図3)。このことから、β2アドレナリン受容体とCCR7およびCXCR4の間には情報のやりとり(クロストーク)があり、β2アドレナリン受容体が刺激されるとこれらの2つのケモカイン受容体からの入力が強まり、リンパ球のリンパ節への保持が促される結果、リンパ球のリンパ節からの脱出が抑制されることが判明しました。さらに、β2アドレナリン受容体がこれら2つのケモカイン受容体と複合体を形成することも確認され、神経伝達物質受容体と免疫受容体の分子複合体が、神経系からのインプットを免疫系からのアウトプットに変換する「神経‐免疫コンバーター」として機能していることが明らかになりました。
            
3. β2アドレナリン受容体を介した炎症の制御
          
さらに研究グループは、β2アドレナリン受容体あるいは交感神経によるリンパ球動態の制御が、炎症性疾患の病態においてどのような意味を持つのか検討しました。多発性硬化症注4)とアレルギー性皮膚炎のマウスモデルにβ2アドレナリン受容体の刺激薬を投与したところ、いずれの炎症性疾患モデルにおいても病気の進行が抑えられました(図4)。一方、β2アドレナリン受容体の発現を遺伝子操作で欠損させたマウスでは、症状が重くなることがわかりました。これらの結果から、β2アドレナリン受容体からの入力は炎症を鎮静化する方向に作用することが確かめられました。
これらの炎症性疾患モデルでは、リンパ節で産生された炎症の誘導に関わるリンパ球(病原性リンパ球)が、それぞれ中枢神経あるいは皮膚に移動して炎症を引き起こすことで病態が形成されます。そこで研究グループは、アレルギー性皮膚炎のモデルを利用して病原性リンパ球の体内動態について解析した結果、β2アドレナリン受容体刺激薬の投与によって、病原性リンパ球のリンパ節からの脱出が抑制され、炎症部位である皮膚への到達が妨げられることがわかりました(図5)。一方、β2アドレナリン受容体の発現を欠損させた病原性リンパ球は、β2アドレナリン受容体を発現する病原性リンパ球よりもリンパ節から脱出しやすく、炎症部位に到達しやすいことが判明し、交感神経からの生理的なレベルの入力もまた病原性リンパ球の動態に関与することが明らかになりました。これらの結果から、交感神経によるリンパ球動態の制御が炎症性疾患の病態にも関与することが示されました。
        
■研究が意味すること
          
今回の研究によって、交感神経からの入力がβ2アドレナリン受容体とケモカイン受容体のクロストークを介してリンパ球の体内動態を制御することが明らかになり、さらにこのメカニズムが炎症性疾患の病態にも関与することが示されました(図6)。しかし今回の結果は、ストレスが加わることによって交感神経が興奮すると、炎症性疾患の症状が「良くなる」ことを示唆しており、ストレスが健康に悪影響を及ぼすという一般的な考え方からすると逆説的な印象を受けます。免疫の本来の役割は病原体の感染から我々のからだを守ることですが、免疫反応が過剰に起こってしまった結果が炎症性疾患です。つまり免疫は、我々のからだにとって良い方向にも悪い方向にも作用する「もろ刃の剣」なのです。研究グループの研究は、ある種の炎症性疾患では、交感神経が興奮しβ2アドレナリン受容体が刺激されると炎症を起こすリンパ球が炎症部位に到達できなくなり、炎症が鎮静化に向かうことを示唆しています。これを我々のからだに病原体が侵入した場合に置きかえてみると、炎症性疾患で炎症の誘導に関わっていたリンパ球は、感染症という局面では病原体の排除にはたらく有益なリンパ球であり、それらが病原体の侵入部位に到達できなくなることは、病原体の排除を妨げ、感染症の治癒を遅らせることにつながります。したがって、今回の研究で明らかになった交感神経によるリンパ球の体内動態の制御は、ストレスが加わった際に感染防御という免疫の本来の機能が損なわれる、つまり「ストレスによって免疫力が低下する」ことの一因となる可能性があります。交感神経による免疫制御の分子メカニズムの一端を解明した今回の研究を足掛かりとして、ストレスあるいは情動が交感神経を介して免疫機能にどのように反映されるのか、まさに「病は気から」を明確な分子の言葉で語ることが可能になると予想されます。それが実現すれば、交感神経による免疫制御に関わる分子を標的として、ストレス応答を人為的にコントロールするという新しいコンセプトに基づいた病気の予防・治療法の開発につながると期待されます。
         
          
論文中の図表については、リンク先で確認ください。
これまで、「病は気から」という言葉は古くから、多くの人が体験上で知っていいたと思います。
今回は、交感神経とアドレナリン受容体を通して体内のリンパ球動態を調べることで、そのことが分かった、というものです。
アトピー性皮膚炎の方でも、ストレスで症状が悪化した経験を持つ方は多いと思います。
記事の「研究が意味すること」を読むと、本来、交感神経優位になると、炎症性疾患の症状が「良くなる」ことを示唆する、とありますが、実際のところは、アトピー性皮膚炎などアレルギー疾患の場合、炎症を引き起こす原因がリンパ球以外にも考えられるため、そうしたことが複合的に絡んでいるのではないかと思います。

いずれにしても、気持ちの持ちようが、生体に与える影響があることは知っておくようにしましょう。

                
おまけ★★★★博士のつぶやき

こうした記事を誤って解釈すると、アトピー性皮膚炎の人は、気持ちが弱い、というように取れるかもしれん。
じゃが、結果は常に原因があってそれに対応するものとして存在しておる。
「痒み」「掻き壊し」「炎症」といったアトピー性皮膚炎の人が感じる不快な症状は、全て原因ではなく結果じゃ。
したがって、アトピー性皮膚炎の人に、今回の記事が関係するような症状が現れたとしても、気持ちの持ち方が悪いから症状が出た、のではなく、症状が悪いから気持ちの持ち方が弱くなった、と考えた方が良いじゃろう。
もっとも、常に前向きに考えることが良いことは確かだと思うがの。