黄色ブドウ球菌のデルタ毒素とアトピー(1)

東です。

 

 

 

 

 

 

 

 

                             
さて、先日、昨年ネイチャーに掲載されたある論文に対して、ドクターを取材してきました。
臨床上のアトピー性皮膚炎の症状を考えた時、この論文の内容は、かなり重要なポイントを示唆しているように思いました。
今日と明日で、内容の方を紹介したいと思います。

まず、論文の概要を和訳してみましたので、内容を簡単に紹介します。
     
    
●ブドウ球菌デルタ‐トキシン(δ-toxin)はマスト細胞を活性化し、アレルギー性皮膚炎を誘発する
         
アトピー性皮膚炎は慢性の炎症性皮膚疾患で、工業先進国において小児の15~30%、成人の約5%に発症する。アトピー性皮膚炎の病因はまだ完全には解明されていないが、皮膚バリア機能の異常を背景に、IgE(免疫グロブリンE)の異常な免疫応答が関与している。マスト細胞は活性化すると、細胞質基質における顆粒が膜結合型の脱顆粒を起こす。顆粒内にはアトピー性皮膚炎の病因物質や宿主の防御に重要な役割を果たす複数の分子が含まれる。黄色ブドウ球菌は健康な人ではほとんど病原体として寄生しないが、アトピー性皮膚炎患者の90%以上で、皮膚病変にコロニーを形成する。ブドウ球菌のいくつかの菌体外毒素は、アトピー性皮膚炎モデルにおいて、スーパー抗原及び抗原として、あるいはスーパー抗原か抗原のいずれかとして機能する。しかし、これらの病因物質である菌体外毒素の役割はすべてが解明されたわけではない。黄色ブドウ球菌の培養液上清には、マスト細胞を脱顆粒させる活性化因子が含まれる。この活性化因子は生化学的分析によって、黄色ブドウ球菌により産生されるデルタ‐トキシン(δ-toxin)であることが同定された。マスト細胞のデルタ‐トキシンによる脱顆粒は、ホスホイノシチド3キナーゼ(phospholnositide-3-kinase)及びカルシウムイオンの流入に依存する。しかし、IgEのクロスリンキングによっては媒介されないように思われる。また脾臓チロシンキナーゼを必要としない。さらにIgEは抗原が存在しなくてもデルタ‐トキシンによるマスト細胞の脱顆粒を増強する。さらにアトピー性皮膚炎患者から分離した黄色ブドウ球菌は大量のデルタ‐トキシンを産生する。黄色ブドウ球菌が皮膚でコロニーを形成すると、デルタ‐トキシンにおける欠損変異株ではなく、炎症性皮膚疾患と同様にIgE、IL-4の産生を促進する。さらにIgEの産生、デルタ‐トキシンによる皮膚炎の増悪はKitw-sh/w-shマスト細胞欠損マウスでは認められず、マスト細胞の再構築によって再現される。これらの試験によって、マスト細胞を脱顆粒させる誘因因子はデルタ‐トキシンであることが同定され、黄色ブドウ球菌のコロニー形成とアレルギー性皮膚炎の病態メカニズムとの関連が示唆された。
            
            
内容を簡単にまとめると、
             
●アトピー性皮膚炎の90%以上に黄色ブドウ球菌のコロニーが確認できる。
●皮膚に定着した黄色ブドウ球菌はデルタ毒素を産生する
●デルタ毒素は、肥満細胞(マスト細胞)からアトピー性皮膚炎の病因物質(炎症を起こすヒスタミンなどの物質)が含まれる顆粒を脱顆粒させる
●肥満細胞から放出された顆粒に含まれる病因物質がアトピー性皮膚炎の炎症を引き起こす
●さらに、IgEが抗原を介さずに、デルタ毒素による肥満細胞(マスト細胞)の脱顆粒を増強する
●アトピー性皮膚炎患者の場合、デルタ毒素はIgEやIL-4(インターロイキン4)の産生を促進させる
         
というものです。
記事にあるように、アトピー性皮膚炎の9割ほどの方は、黄色ブドウ球菌に感染していることがわかっています。
なぜアトピー性皮膚炎の方が黄色ブドウ球菌に感染しやすいのかについては、まだ解明されていませんが、バリア機能が低下しやすい状態にあることが関係しているのでは、と考えられています。
これまでは、IgEが抗原抗体反応によりマスト細胞からヒスタミンなどの起炎物質を放出させ、そうした起炎物質がアトピー性皮膚炎の「炎症」「かゆみ」を形成している、と考えられていました。
これとは別に、皮膚のバリア機能の低下が、外部からの異物の侵入や刺激を誘発することで、角質層内に侵入した痒みを知覚する神経線維が、痒みを誘発、掻くことで炎症が生じ、連鎖的に炎症が広がる、という皮膚機能の問題もあると考えられていました。

今回の論文では、これらの別々に身体機能、そして皮膚機能に対して影響を与えていた要因が、黄色ブドウ球菌という「因子」を元に関係性を持たせていたことがわかります。

では、実際のアトピー性皮膚炎患者の病態に対して、どのような影響を与えているのか、またどういったことが大切になってくるのか、詳しい解説については、明日に続けたいと思います。

                                
おまけ★★★★東のつぶやき

アトピー性皮膚炎の方が、黄色ブドウ球菌などの感染症に罹りやすいことは、他にもエビデンスで証明されています。
今回の取材でお聞きした限りにおいては、こうしたマスト細胞に脱顆粒を引き起こさせるのは、他の感染症(ヘルペスウィルスや真菌など)では、特に確認されていない、ということですが、アトピー性皮膚炎の治療を考えていく上で、炎症を抑える治療だけでなく、感染症を抑える治療を同時に行っていくことが大切であることがわかります。
ステロイド剤など、現在行われている治療ができる点と、出来ていない点、さらにマイナスの影響を与えている点については、明日述べたいと思います。