「毛」の研究

東です。

 

 

 

 

 

 

 
連日、ブログを担当します。

昨日は、理化学研究所の腸管内の免疫の研究について紹介しましたが、慶応大が免疫と毛のうの免疫に関する研究の発表がありましたので、紹介したいと思います。

 
●毛はただの物理的バリアではない – 慶応大、毛嚢の免疫に関する機能を発見
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120625-00000031-mycomj-sci

慶應義塾大学(慶応大)は6月25日、国内外での共同研究により、毛は外的刺激に反応して「樹状細胞」を皮膚に呼び寄せ、「毛嚢(もうのう)」の部位による異なる「ケモカイン」を発現し、樹状細胞の表皮内への進入を巧妙に制御していることを発見したと発表した。
 
成果は、慶応大 医学部皮膚科学教室の永尾圭介専任講師、同天谷雅行教授らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、米国東部時間6月24日付けで英科学誌「Nature Immunology」電子版に掲載された。
 
毛・毛嚢はすべての哺乳動物が持っている基本的な構造であり、外的刺激から体を守る重要なバリアを提供している。円形脱毛症、膠原病、ニキビなど毛嚢が傷害される炎症性皮膚疾患がよく知られているが、今まで毛嚢に能動的な免疫機能があるとは考えられていなかった。
 
一方、2011年のノーベル生理学・医学賞の受賞対象(故・ラルフ・スタインマン博士)となった樹状細胞は白血球の一種で、免疫の起点となる重要な細胞だ。生体の最表面にある表皮には「ランゲルハンス細胞」という樹状細胞が全身を覆うネットワークを形成し、微生物などから生体を守っている。
 
研究グループはランゲルハンス細胞がどのような機序で表皮に動員されるのかに興味を持ち、観察を行ったところ、樹状細胞と毛嚢との重要な関係が発見されたというわけだ。
 
ランゲルハンス細胞は骨髄から発生することが知られているが、正確な起源は明らかではなかった。マウスを用いて解析したところ、骨髄の単球という白血球がランゲルハンス細胞前駆細胞となり、その後表皮の中でランゲルハンス細胞に分化することが確認されたのである。
 
ランゲルハンス細胞前駆細胞が表皮へ入っていく際、常に毛嚢を経由していることがわかった(画像1)。皮膚での外的刺激や炎症がこのプロセスを促す仕組みだ。
 
「2光子顕微鏡」という生体内を観察できる顕微鏡を用いて、物理的刺激を加えたマウスの皮膚を観察すると、白血球は刺激負荷後1.5時間後より毛嚢に集積することが判明(画像2)。また、ランゲルハンス細胞前駆細胞が表皮内に入るためには、特定のケモカインレセプター(受容体)を持っていなければならないこともわかった。
 
これらの事実から、研究グループは、毛嚢にはケモカインを産生し、樹状細胞を呼び寄せる機構が存在するのではないかと考察。毛嚢の細胞を5つに分離し、遺伝子発現解析を行ったところ、毛嚢のある特定の部位にランゲルハンス細胞前駆細胞を呼び寄せるケモカインが産生されることが確認された。対応するケモカインの受容体がないと表皮への進入が阻害されることも示されたのである。
 
さらに、毛嚢の重要性を示すために、毛嚢を維持することができないマウスの皮膚に炎症を起こし、ランゲルハンス細胞前駆細胞の動員を誘導したところ、毛のある皮膚にはランゲルハンス細胞前駆細胞が表皮内に入ったのに対し、毛のない皮膚では入ることができないことが確認された。よって、ランゲルハンス細胞前駆細胞が表皮に入っていく際には毛嚢がゲートウェイとして重要な働きを担っていることが明らかになったのである。
 
また、毛の再生に重要な幹細胞を有する毛嚢隆起部では、ランゲルハンス細胞前駆細胞の進入を防ぐ別のケモカインが産生されており、毛嚢の部位により樹状細胞の進入を制御されていることがわかった(画像3)。
 
画像3は、毛嚢免疫システムの模式図。外的刺激に反応して、毛はケモカインを産生して樹状細胞などを呼び寄せるが、毛嚢の幹細胞が存在する場所では、樹状細胞を寄せ付けないようにするケモカインを産生している。
 
また、ヒトの疾患においても、毛嚢が残っている脱毛症(円形脱毛症)では、表皮内のランゲルハンス細胞が正常に認められたが、毛嚢が残っていない脱毛症(瘢痕性脱毛症)では、表皮内のランゲルハンス細胞がほぼ消失していた。
 
ヒトの毛嚢においても、ランゲルハンス細胞を呼び寄せるケモカインはもちろん、円形脱毛症で関与が疑われるケモカインも毛嚢の特定の部位で産生されていることが判明。マウスだけでなく、ヒトでも毛嚢が免疫機能を有していることが強く示唆されたのである。
 
今回の成果により、毛嚢には今まで気づかれていなかった免疫機能が備わっていることがわかった形だ。単なる物理的バリアであると考えられていた毛嚢は、積極的に皮膚の白血球の交通を整理していたというわけだ。毛嚢に新たな存在意義が加わったといえるだろう。
 
皮膚は全身を包む最大の臓器であり、微生物などの外来物質に対して活発な免疫応答が行われている。今回の研究により、毛嚢がこれらの調節に重要な役割を持っていることが明らかになった。今後皮膚での炎症、免疫を理解するための重要な基盤となることが考えられるという。
 
今回の研究では樹状細胞に着目して解析したが、毛嚢が呼び寄せるのは樹状細胞だけとは限らない。円形脱毛症や瘢痕(はんこん)性脱毛症ではリンパ球が毛嚢を破壊する。ニキビでは好中球という細胞が毛嚢で炎症を起こす。毛嚢が白血球を動員するメカニズムをコントロールできれば炎症を抑えることが可能となるはずだ。
 
アトピー性皮膚炎や乾癬(かんせん)という皮膚疾患でもリンパ球を主体とした炎症が起きるが、毛嚢が炎症を起こす細胞を呼び寄せている可能性が考えられる。
 
今回の研究にて明らかになった毛嚢による白血球の交通整理はアトピー性皮膚炎などの皮膚炎症の病態解明に役立ち、将来それを応用した新しい治療法開発の基盤となることが期待されると、研究グループはコメント。
 
また、さまざまな感染症を予防するワクチンを接種する場所として、皮膚が最も効果的であることがわかっている。単に感染症といってもさまざまなものがあり、予防にはそれぞれの感染症に応じた特有の免疫応答が必要だ。望ましい免疫応答を促すために必要な細胞を呼ぶ。今回の研究の白血球動員制御機構は、より制御された新規ワクチンの開発戦略に寄与することが期待されるとも述べている。
  

記事中に出てくるランゲルハンス細胞は、免疫にも深く関わっており、ステロイド剤との関係について、近々、あとぴナビでも海外の論文を元に特集を予定していますが、こういった皮膚表面における免疫の仕組みが解明されることは、アトピー性皮膚炎にとっても、大きな前進となるように感じます。
記事は、ワクチンの開発に向けて、とありますが、アトピー性皮膚炎で考えた場合、現在、行われている治療法の影響なども含めて、包括的な研究がおこなわれることを期待したいところです。

 
おまけ★★★★博士のつぶやき

アトピー性皮膚炎の場合、もう一つ考えなければならないのは、免疫異常が主要因とならない「痒み」の場合があることじゃろう。
アトピー性皮膚炎は、どちらかというと「症候群」のような病態じゃからの。
ただ、一要因が解明されていくことは良いことじゃ。