薬剤が病態を悪化させていないか?

東です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 
アトピー性皮膚炎の場合、ステロイド剤など免疫を抑制する薬剤が、現在行われている治療の「基本」となっていますが、これらの薬剤は、「治せる部分」と「悪化させる部分」がはっきりしており、自分の状態を正しく把握しておかないと、薬剤のよる影響を受けることがあります。
このような薬剤が逆に病態を悪化させることについて、先日、ある先生からいただいた記事を紹介したいと思います。

 
●治療後の症状憎悪
講師:福島龍貴(独立行政法人国立病院機構東京医療センター)

Q.顔面の帯状疱疹を治療中に意識障害を認めるようになり受診。この場合の鑑別診断は?

【症例】特記すべき既往のない85歳女性。受診5日前から左眼周囲の発赤と水疱を認めるようになり、2日前に近所の皮膚科で帯状疱疹と診断されバラシクロビル3,000mg/日の処方を受けた。前日から意識障害を認めるようになり、救急車で来院した。来院時はJCS1、体温は36.7℃で、それ以外のバイタルサインは正常だった。神経学的診察では明らかな巣症状を認めず、髄膜刺激徴候は陰性。頭部CTでは加齢性の虚血性変化のみで、血液検査では低血糖や電解質異常を認めず、アンモニアも正常範囲内だったが、BUN53.3mg/dl、Cr4.69mg/dlを著明な腎機能障害を認めた。

A.薬剤による有害事象は、治療対象であるはずの症状の憎悪という形で現れる場合がある

進行性の意識障害があり、また顔面の帯状疱疹を認めたため、水痘・帯状ヘルペスウイルスによる髄膜脳炎の可能性を第一に考えて、救急外来でアシクロビル500mgを点滴投与した。また、細菌性髄膜炎の可能性も考慮し、血液培養2セット採取後に抗生物質の投与を開始してから入院とした。
入室時は、救急外来受診時と比べて、意識状態はJCS20と悪化していた。髄液検査を実施したところ、無色透明、単核球7/3、多核球0/3、蛋白36mg/dl、糖110mg/dl、CI131mEq/lであった。アシクロビル投与後から一段と意識状態が悪化し、髄液中の明らかな細胞数の増加を認めなかった点から、来院前日からの意識障害は、髄膜脳炎によるものというよりも、抗ヘルペスウイルス薬による薬剤性脳症の可能性が高いと考えられた。著明な腎機能障害も、より薬剤性を疑う根拠となった。
これらに基づき、アシクロビルと抗生物質の投与は中止し、一般的な補液のみで経過観察することにした。その後意識状態は徐々に改善し、入院3日後に意識は清明となり退院した。以上より、意識障害はいわゆるアシクロビル脳症によるものと結論づけた。
腎機能障害も抗ヘルペスウイルス薬による薬剤性の急性腎不全と考えられ、薬剤の中止後は速やかに正常化した。帯状疱疹に関しては、抗ヘルペスウイルス薬を中止して経過をみたところ自然軽快した。なお抗ヘルペスウイルス薬は腎排泄性であり、意識障害の他にもけいれんなどの精神神経症状が起こることがあるが、高齢者や腎不全患者では投与量を調節するのが望ましい。
薬剤による有害事象は、治療対象であるはずの症状の憎悪という形で現れる場合がある。本症例は、進行する意識障害を原疾患によるものと判断し、薬物治療を強化した結果、症状が悪化したケースである。
これ以外にも、非ステロイド抗炎症薬による頭痛の悪化、ステロイドによる喘息症状の悪化、抗不整脈薬による新たな不整脈の出現、細菌性肺炎の治療に用いた抗生物質による薬剤性肺炎など、このようなケースは少なくない。また、抗生物質の不適切な使用に伴って出現した耐性菌による感染症や、抗がん剤による二次発がんも、広い意味でこの範疇に入るかもしれない。
治療開始後に症状が悪化した場合、わたしたちは薬剤の効果が不十分と判断しがちである。しかしこのような場合も、薬物治療を強化する前に、薬剤そのものが病態を悪化させていないかどうかを、立ち止まって考えてみる必要がある。

 
専門用語が多く、分かりづらい点があるかもしれませんが、疾患に対して使用される薬剤の場合、本来、薬剤が持つ効果と、逆に影響を与える副作用の効果は、いずれも、多かれ少なかれ、生体に対して影響を与えています。
もし、後者が強かった場合、本来、治療として使用しているはずの薬剤が、かえって病態そのものを悪化させる、というケースも考えられるので、注意が必要と言うことです。

アトピー性皮膚炎の場合、免疫抑制剤であるステロイド剤やプロトピック軟膏が使われていますが、これらの薬剤や、痒みや炎症を抑える「免疫抑制」の作用が、感染症などに対しては逆に働く恐れもあり、自分の症状が薬剤を使用しても、なかなか良くならない、あるいは炎症が広がっている場合には、注意した方がよいこともあるでしょう。

薬剤を長期連用されている方で、症状が一進一退を繰り返している場合には、感染症など、薬剤のより影響を受けている恐れのある部分を考えてみることも大切でしょう。

 
おまけ★★★★博士のつぶやき

薬剤は、一定の効果を有しておるが、決して万能ではない、ということじゃの。
薬剤を使用する目的が何なのか、今の自分の状態にどのように役立ち、どのようなリスクを生じているのかは、長引いている人の場合は特に考えた方が良い場合もあるじゃろう。