制御性T細胞の話(2)

東です。

 

 

 

 

 

 

 
今日は、昨日に引き続いて、制御性T細胞の記事を紹介したいと思います。

 
●理化学研究所、制御性T細胞による皮膚免疫炎症抑制のメカニズムを発見
http://release.nikkei.co.jp/detail.cfm?relID=244553&lindID=4

 
背景

皮膚アレルギー疾患の克服は重要な社会的課題ですが、その発症・慢性化のメカニズムの全体像はいまだ不明です。免疫系は、多種の免疫細胞が、皮膚や腸管などの末梢組織とリンパ節などを含むリンパ系の間を行き来して、クロストークすることにより成立していると考えられています。しかし、皮膚からリンパ系に移動する免疫細胞の解析は、皮膚からリンパ節につながっているリンパ管に、ガラス管などを挿入して免疫細胞を回収する必要があるため、大型動物であるヒツジなどでしか行うことができませんでした。さらに、これら大型動物の細胞を詳細に解析するための試薬なども整っていませんでした。そのため、例えば、免疫応答抑制に重要な制御性T細胞は、皮膚とリンパ系の両方に存在していますが、正常時や炎症時にはこの組織間を移動しているのか否か、移動しているとすればどれくらいの数の細胞が移動しているのかなど、制御性T細胞の具体的な挙動は、まったくと言ってよいほど分かっていませんでした。

研究グループは、紫色の光を照射すると緑色から赤色に変色する光変換蛍光タンパク質「カエデ」を導入した「カエデマウス」を開発し(図1)、赤色にマークした目的部位の細胞が、一定時間後、どこへ移動しているかを追跡することで、全身の細胞移動を目で見て把握することができる評価系を確立していました(Tomura et.al. PNAS. 105, 10870-10875(2008))。このカエデマウスを使って、正常時と皮膚炎症時で、皮膚からリンパ系にどの種類の免疫細胞が、いつ、どれくらいの数だけ移動しているのか、さらに、免疫応答制御における移動した免疫細胞の役割解明に挑みました。

 
研究手法と成果

(1)正常時と皮膚炎症時に皮膚からリンパ系に移動する細胞 

 
皮膚からリンパ系に移動する免疫細胞を追跡するために、カエデマウスの腹部の毛を剃った後、紫色の光を当て、皮膚組織や皮膚に存在している免疫細胞を赤色にマークしました(図2)。24時間後、赤色の免疫細胞が移動した先のリンパ節(所属リンパ節(※6))を解析しました。その結果、移動した細胞は、樹状細胞(※7)とT細胞が約半数ずつ占めていることが分かりました。同時に、このT細胞の内の約5分の1が、制御性T細胞であることを初めて見いだしました。

次に、正常時から皮膚炎症時になると、皮膚炎症部位からリンパ節に移動する細胞の種類の割合がどう変わるのかを調べるために、接触性皮膚炎モデルマウス(※8)を使って解析しました。その結果、皮膚炎症時では、移動したT細胞のうち、制御性T細胞でないT細胞が約5倍に増えた一方、制御性T細胞は約20倍にまで増加し、移動したT細胞の約半分を制御性T細胞が占めるまでになりました。

(2)接触性皮膚炎の終息に制御性T細胞は必須の役割 

 
この接触性皮膚炎モデルマウスでは、炎症は時間が経過すると自然に収まります。しかし、全身の制御性T細胞を4分の1に減らしたマウスを使って皮膚炎症を起こすと、炎症は時間を経過してもまったく収まりませんでした。この結果から、皮膚炎症の終息には制御性T細胞が必須であることが分かりました(図3)。

また、所属リンパ節での反応を模倣した実験系を試験管内で再現して調べたところ、皮膚炎症部位からリンパ節に移動した制御性T細胞は、もともとリンパ節に存在する制御性T細胞に比べ、約10倍の免疫応答抑制活性を示しました。さらに、皮膚炎症部位からリンパ節に移動した制御性T細胞を単離し、直接、マウスの皮膚炎症部位に注射すると炎症を抑制しました。これは、個体レベルの炎症部位でも、制御性T細胞の炎症抑制作用があることを示しています。つまり、皮膚炎症が起こると、皮膚炎症部位の制御性T細胞は強い免疫抑制活性を発揮し、所属リンパ節と炎症が起こっている皮膚の両方で炎症を抑制するといえます。さらに解析を進めた結果、この活性化した制御性T細胞が、強い細胞増殖抑制活性とともに免疫を抑制するタンパク質を作っていること、炎症を起こして2~3日目の間、一過性に皮膚炎症部位からリンパ節へ移動していることが分かりました。

こうして、免疫炎症の終息には、炎症部位からリンパ節に移動する大量の強い免疫抑制活性を持つ制御性T細胞が重要であることを明らかにしました(図4)。

 

今後の期待

今回の結果は、免疫反応を起こしている末梢組織からリンパ系に移動する細胞が、免疫疾患の制御に重要な役割を果たしていることを示しています。また、強い抑制活性を持つ活性化した制御性T細胞は、炎症を起こした後、短時間だけ、皮膚からリンパ節に移動してくることが分かりました。従って、皮膚炎症を制御するには、どのタイミングで、どのような性格を持った細胞が、皮膚からリンパ節に移動するかを知ることが重要であることを示しています。

これまでは、個々の免疫細胞の機能解析を中心に研究が行われていたため、全身レベルでの免疫細胞の時間・空間・数量的な制御という情報に基づいて、免疫応答を考察することが不可能でした。研究グループは、カエデマウスを使って、免疫反応を起こしている末梢組織からリンパ系に移動する細胞の機能と、その時間空間的な制御機構を詳細に調べることによって、皮膚疾患、アレルギー疾患の克服につながる重要な知見が得られると考えています。現在、アレルギーや感染症の克服のために、これらのモデルになるカエデマウスを用いて、皮膚、腸管や粘膜組織からリンパ系に、どのような細胞がどのくらいの数移行して、どんな機能を発揮することで免疫系が身体を守っているのかを明らかにすることを目指し、共同研究を行っています。このように、カエデマウスを使った研究は、最終的には、アレルギー疾患克服のために有用な情報となる新しい概念を提唱するだけでなく、免疫細胞が全身をどう巡りながら免疫系全体を成立させているのか、免疫応答の全体像を解明することが可能になると期待されます。

 
ポイントは、「制御性T細胞を4分の1に減らしたマウスでは、炎症が治まらなかった」という部分ではないでしょうか?
この部分が何を意味するのかというと、制御性T細胞は免疫細胞の一つですから、この制御性T細胞を抑制するような治療を施した場合、炎症が慢性化する可能性が考えられます。

ステロイド剤やプロトピック軟膏の問題点は、免疫抑制作用によるさまざまな障害にあるわけですが、もしかすると、その使用のタイミングというのが、この制御性T細胞との関連から研究が進むかもしれません。
つまり、炎症が急性期においては、免疫抑制作用を持つ薬剤は、一時的な免疫抑制作用に役立ちますが、その後、慢性的に使用することは、自分の体で免疫を抑制する力を、「抑制」する恐れがあるということです。
どのタイミングを図ることで、この制御性T細胞が働くのかは、まだまだこれからの研究を待つしかないとは思いますが、連続させない短期使用など、ステロイド剤の「正しい使い方」が、もしかすると模索できるのかもしれません。

今後の研究の経過を見守りたいところです。

 
おまけ★★★★博士のつぶやき

薬剤の使用はTPOを間違えないことが大切じゃが、ステロイド剤という薬剤そのもは、炎症を抑制するという点では、優秀な薬であることは確かじゃ。
じゃが、その長期連用が、数々の副作用を生むことも分かっておる。
今回の研究が進めば、「ステロイド剤を使ってよいタイミング」というのが、もしかすると図れるようになるのかもしれんの。
もちろん、ステロイド剤などの薬剤は、アトピー性皮膚炎そのものを直接治している薬剤ではないわけじゃが、QOLを維持させるためには「必要な薬剤」の一つであることも確かじゃ。
あとぴナビでは、アトピー性皮膚炎の治療を「ステロイド剤などだけに頼ること」は反対じゃが、ステロイド剤の使用そのものを全く否定しておるわけではない。
ぜひ、今の「ステロイド剤治療」をアトピー性皮膚炎治療の本流としておる医師たちも、今回の研究から何かを見つけて欲しいと思う。